友人は、2年前に心の病気にかかりました。仕事も手につかず、念願叶って就職した会社にも行けなくなりました。その話を聞いてから本人に会ったのは、去年の冬になります。そのとき、弟の近況を聞かれた私は、「仕事もせずにずっと家にいるよ」と答えました。友人と別れてから、軽率な発言だった、無神経だった、ちゃんと理解していないからこんな言葉を口にしてしまったんだとずっと罪悪感でいっぱいでした。弟に対しても、身内だからと働かないことに容赦無く言葉をかけていたけれど、本当にそれで良かったのかと、友人や弟にかける言葉の正解はなんだったのかと、ずっと悩んでいました。もどかしさで頭がいっぱいの日々が続きました。心の病気にかかった人に対して、周りの人間はどうするのが正しいのか作品を通しして考えたいと思ったのが、この作品をつくるきっかけです。罪悪感から始まった作品作りの中で、友人は「気を使われるのは嫌だけど、それはなみちゃんが悪いわけではないし、私も悪くない」と言いました。その言葉はとても衝撃的で、見た目では分からないけれど、そんな考え方ができる友人は、確かに前に進んでいるのだと感じました。心の病気は終わりがなく、特性だと考えなければいけないものだと思っていたけれど、きっと、綿の縄のように解くことができるものなのかもしれない。そう思いました。作品に出てくる顔が描かれていない人たち。彼、彼女たちの、孤独を感じながらも逃げずに何かと真剣に向き合って、縄を解こうとしている強さを表現できたらと思って作品を作りました。

福田奈実

(私)の本をつくろうと思ってる、と連絡が来たとき、なにを言っているんだろうと思いました。でも完成したこの絵は、間違いなく「私の作品」で、きっと同じように感じる方も、たくさんいらっしゃるのだと思います。生まれて、私にうまく掴んでもらえなくて、ふわふわ漂って行き場がなくなった感情たちは、この作品の中のどれかに拾ってもらえて、そして私に返ってきます。優しくてつめたくて悲しくて思慮深いこのZINEに、この先何度も助けてもらうのだと思います。自分や、自分の感情が分からなくなる方、自分は1人だと感じてしまう方、自分がいるのに、近くの人、大事な人が「私は1人だ」と言っていて、どうしようもない方。そんな心に、「綿の縄」が、寄り添ってくれることを、それを少しでも感じてもらえることを願っています。奈実ちゃん、この本をつくってくれてありがとう。何言ってんだとか思ってごめんね。

松本春菜
綿の縄
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